前回取り上げた「入院しなくてもなんとか大丈夫そうか?」という問いが発せられた時点で、それは私の説明不足と考えて補足しなければなりません。
まず、重症例の治療というものは、人手も道具も整い、継続的な観察が可能な入院治療が望ましいという事実があります。しかし同時に、病気の動物を診療所内に留め置く時間が長ければ、その間に病状が悪い方に変化する可能性も無視できなくなります。極端な場合、診療所内でペットが絶命してしまうことですら、無いとは言えません。
入院治療には、ペットが飼い主さんと離れたところでこと切れるリスクをゼロには出来ないという問題が付いて回るのです。重症例の飼い主さんに対して、入院自体の是非をも問いかける真意は、まさにこうしたリスクの可視化にあります。治療の着手段階で飼い主さんと我々治療者がともに考え、一定程度合意しておきたいのは、「死生観」にかかわる問題なのです。
これから難しい治療に取り組もうかという「入口」において、正誤になじまない個々人の価値観に踏み込むような問いかけをすることには、私自身の中でも迷いがない訳ではありません。しかし、このタイミング以降に先送りするデメリットもまた甚大であろうというのが、年来の経験から得た、現時点における私の判断でもあるのです。
「どこまで治療してあげたらいいですか?」(5)に続く
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