あおぞら診療日記「レオくん」

初めて飼い主さんに連れられて当院へやって来たレオくんは、一見してそれと分かる「極度に怯えた目をした」ワンちゃんでした。

以前は全くもって気のいい普通の気質のワンちゃんだったのですが、秋口に外耳炎を患い、近隣で治療を受けた日から状況が一変。

病院内での治療も「見てられない」(飼い主さん談)ほどの波乱に終始した結果、自宅で実施するよう手渡されたクスリを持って立ち上がっただけで、最愛の飼い主さんに対してまで攻撃性を発揮するようになってしまい、徐々に悪化してゆく外耳炎を前に途方に暮れていたのでした。

病態として難治性である外耳炎に対しては、お得意の漢方&鍼灸を駆使することもある当院ですが、レオくんの抱える困難さは基本的な初期治療のまずさに加え、レオくんを極端に怯えさせた人間(治療者)不信であろうと判断。

当院が漢方&鍼灸の後ろに隠し持つ最強の兵器である「動物の扱いが上手(←当たり前のようで実は非常に難しい!)」なベテラン動物看護士陣の腕の見せ所として、応需いたしました。

外耳炎治療において一家言を持つ?獣医師と、どんなシャイな子でもあの手この手でハンドリングしてしまう当院看護士たちが、それでも内心手ごわさを感じながら取り組んだレオくんの治療は無事成功。数回の通院で寛解し冬を越え、再発の多くなる春以降も難なく通過。二か月に一度くらい、点検目的で来院していただく他は特別な処置もなく、飼い主さんと元通りの穏やかな毎日を送るレオくんに復帰することが出来ました。

 

 

 

====================命はもともと自立的=====================
病気になったとき、それを治すとはどういうことでしょうか。
たとえば胃に炎症が生じて食欲がなくなったときに飲む胃薬。
炎症で傷んだ胃粘膜を様々な機序を介して修復することを助けますが、
飲んだ胃薬そのものが胃の中で「正常な胃粘膜」に変身したり、置き換わることは出来ません。
炎症で壊れた胃粘膜も始めはそうであったように、
損傷部を修復するために新調される胃粘膜もまた「身体」が作ってくれます。
繰り返しますが、胃薬は修復の過程を助けるのであって、
飲んだ薬自体が胃粘膜に成り代わって胃の中に存在し続ける訳ではありません。
傷んだ身体(の一部分)を元通りに直すのは例外なく身体自体の営みで、
治療はそれを促したり、邪魔する要因を取り除くだけです。
つまり、命は本来自立的であるということ。それに寄り添うのが治療者の役目。
動物にその自覚を求めるのは無理としても、われわれ獣医療者はもちろん、
飼い主さんにとってもこの深淵なる原理への理解は意義深いでしょう。
命が自立的であることへの理解を(無意識的な場合も含めて)深めた飼い主さんが、
最愛の動物を健やかな状態に保つことに成功している様子は、
獣医師の私にいつも清々しい感動を与えてくれます。
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