あおぞら診療日記「こむぎちゃん」

ほんとうにシャイでおとなしいこむぎちゃん(飼い主さんにピッタリ張り付いて離れない写真をご覧ください!)は、子供のころから食が細く、ちょっとした環境の変化で胃腸の具合が悪くなりがちでした。

こむぎちゃんの飼い主さんは二つの拠点を往き来する必要があり、こむぎちゃんはペットホテルでお留守番なのですが、おなかの弱い子の例に漏れず、飼い主さんと一緒に無事帰宅するや否や、ほぼ毎回下痢や嘔吐といったつらい胃腸症状が待ち受けているのでした。

このことに大変心を痛めておられた飼い主さんに、試しに漢方の「養生」療法で一週間ほど事前準備してからホテルに預けてみてもらったところ、状況が一変。帰宅後もいたって順調なのだそうです。

外部環境の変動や精神的なストレスがきっかけになって、生来の体質的な弱点があぶりだされるタイプの症状においては、西洋医学的な検査を重ねてもこれといった異常所見は見出されず、特異的な治療法も決まらないため、医者に「(具合の悪さと)上手に付き合ってください」と肩をたたかれてしまい、しばしば落胆させられます。

現につらい症状で困っている患者さんにとって重要なのは、医者が納得しやすい検査所見ではなく症状の緩和です。こむぎちゃんのケースは、このような日々の生活でよく遭遇するにもかかわらず西洋医学が苦手とする問題において、漢方が強力な武器として解決に導く可能性を示した好例でしょう。

延べ十日足らずの投薬でこの成果ですから、「漢方に即効性はない」という俗説も当たりません。こむぎちゃんと同じような、ペットの「線の細さ」に悩まれている他のオーナーの皆さんにも、大いに参考にしていただきたい情報だと思います。

 

 

====================命はもともと自立的=====================
病気になったとき、それを治すとはどういうことでしょうか。
たとえば胃に炎症が生じて食欲がなくなったときに飲む胃薬。
炎症で傷んだ胃粘膜を様々な機序を介して修復することを助けますが、
飲んだ胃薬そのものが胃の中で「正常な胃粘膜」に変身したり、置き換わることは出来ません。
炎症で壊れた胃粘膜も始めはそうであったように、
損傷部を修復するために新調される胃粘膜もまた「身体」が作ってくれます。
繰り返しますが、胃薬は修復の過程を助けるのであって、
飲んだ薬自体が胃粘膜に成り代わって胃の中に存在し続ける訳ではありません。
傷んだ身体(の一部分)を元通りに直すのは例外なく身体自体の営みで、
治療はそれを促したり、邪魔する要因を取り除くだけです。
つまり、命は本来自立的であるということ。それに寄り添うのが治療者の役目。
動物にその自覚を求めるのは無理としても、われわれ獣医療者はもちろん、
飼い主さんにとってもこの深淵なる原理への理解は意義深いでしょう。
命が自立的であることへの理解を(無意識的な場合も含めて)深めた飼い主さんが、
最愛の動物を健やかな状態に保つことに成功している様子は、
獣医師の私にいつも清々しい感動を与えてくれます。
=====================================================

「あおぞら診療日記」に戻る

“あおぞら診療日記「こむぎちゃん」” への1件の返信

  1. ピンバック: 「あおぞら診療日記『こむぎちゃん』」を掲載 - あおぞら動物医院

コメントは受け付けていません。