「老化」自体は病気ではありませんし、避けることも、後戻りさせることも、本質的には不可能です。
しかし、老化により身体全体が平均して衰えていくのではなく、どこか特定の部分(組織や器官)だけが先んじて機能を失っていくような状況は、大いに問題となります。
プ―くんはまもなく大台に乗せる見込みのシニア犬ですが、十歳を超えたあたりから既に歯の問題を抱えていました。
と言っても、当時は歯科領域での獣医学は立ち遅れ、そもそも我々獣医師に対する歯科教育の機会でさえ今とは比較にならないほど不十分な状況でした。
飼い主さんに対する歯周ケアなどの啓蒙も必然的に後手に回り、その時期の飼い主さんたちが、後年ペットたちが抱えることになる「深刻な歯科疾患」を予見することはかなり困難だったと思われます。
プーくんは時期を違えて3回にわたり、全身麻酔下での歯科口腔外科処置を経験しました。オーナーさんも不退転の決意で毎日歯磨きに取り組み、残存歯の維持に努めました。
しかし、寄る年波と歯周病の慢性炎症という荷の重さに、プーくんは一時期、目に見えてやつれ、だれもが先を危ぶむような窮地に立たされました。
それでも、オーナーさんは諦めませんでした。
プーくんのように、大病や大手術を乗り越えたものの、一般的な意味で「体の具合」が良くならなかったり、徐々に衰弱してゆくようなケースは、特に高齢動物では比較的よく遭遇します。
現代医学的な臨床検査では目立った異常所見が検出されないにもかかわらず、実際問題として動物の全身状態が悪化してゆくような病程をしめす症例では、西洋医学的な治療に拘泥すると時間切れになってしまい、悔いが残る結果を招くことも少なくありません。
そんなとき、漢方や鍼灸が起死回生の一手となる現場にしばしば立ち会えることは、私にとって臨床獣医冥利に尽きる「役得」であると、常々思っております。
「良い」と思われる日常生活上の助言は漏らさず実行して養生に努め、当院が提案する漢方治療の細かな指示も忠実に守ってくださった結果、プーくんは食欲も安定し、関節の痛みに悩まされることもなく穏やかな日々を過ごしています。
ピンバック: 「あおぞら診療日記『プ―くん』」を掲載 - あおぞら動物医院