あおぞら診療日記「リリィちゃん」

 

リリィちゃんは3歳ころから歯石の付着が目立ち始めました。かなり若い時点で歯石がたくさん付く原因の一つに、乳歯から永久歯への生え変わりが遅かった場合というのが知られています。リリィちゃんの場合にも多少関係していたかもしれません。

この点について問題意識を持っておられた飼い主さんは、リリィちゃんが4歳になったある日、抜本的な解決を期して、全身麻酔下での歯石除去処置を決断されました。

手術予定日に向けて飼い主さんはリリィちゃんの歯磨きブラッシングの特訓を開始。手術の直前までリリィちゃんと二人三脚の訓練を続け、見事ホームケア実行の目途をつけてから手術に臨みました。

あれからすでに数年。日々のブラッシング技術はもはやセミプロの領域に達し、対するリリィちゃんも、ちょっと歯磨きの時間が遅くなった日には、眠い目をこすりながら歯磨きしてもらうのを待ち、完了するや安心して寝床に入るというのですから、ウチの(当院院長の)保育園児にリリィちゃんの爪の垢を煎じて飲ませなければなりません。

リリィちゃんにもう苦労はさせない!という飼い主さんの強い思いは、ヒトの言葉を解さぬワンちゃんにも、まっすぐ伝わるものだという証左ですね。2~3か月ごとにフォローアップのため来院される度に、スタッフ一同すごいねぇ…と感心させられます。

 

====================命はもともと自立的=====================
病気になったとき、それを治すとはどういうことでしょうか。
たとえば胃に炎症が生じて食欲がなくなったときに飲む胃薬。
炎症で傷んだ胃粘膜を様々な機序を介して修復することを助けますが、
飲んだ胃薬そのものが胃の中で「正常な胃粘膜」に変身したり、置き換わることは出来ません。
炎症で壊れた胃粘膜も始めはそうであったように、
損傷部を修復するために新調される胃粘膜もまた「身体」が作ってくれます。
繰り返しますが、胃薬は修復の過程を助けるのであって、
飲んだ薬自体が胃粘膜に成り代わって胃の中に存在し続ける訳ではありません。
傷んだ身体(の一部分)を元通りに直すのは例外なく身体自体の営みで、
治療はそれを促したり、邪魔する要因を取り除くだけです。
つまり、命は本来自立的であるということ。それに寄り添うのが治療者の役目。
動物にその自覚を求めるのは無理としても、われわれ獣医療者はもちろん、
飼い主さんにとってもこの深淵なる原理への理解は意義深いでしょう。
命が自立的であることへの理解を(無意識的な場合も含めて)深めた飼い主さんが、
最愛の動物を健やかな状態に保つことに成功している様子は、
獣医師の私にいつも清々しい感動を与えてくれます。
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