マダニを介した重症熱性血小板減少症について

一頃だいぶセンセーショナルに報じられていた、ヒトの「重症熱性血小板減少症(SFTS)」ですが、ここにきてようやく身のある情報が整理されて提供されつつあります。

結論的には、この病気はワンちゃんのオーナーさんたちの多くが既に見て知っている「マダニ」によって媒介されるが、標記の重篤な(ときに致死的な)血小板減少症にみまわれるのは、どうやら我々「ヒト」だけで、お犬様たちにはこれに相当する症状は襲い掛からないのではないか、ということ。

各地で届け出られるヒトでの発症報告も、その多くが遡及的に認識され、事後的に行われたものが多いそうです。これは、ヒトのお医者さんの間でもあまり知られていない疾患であるため、我々が見聞きしたのと同様の報道なり、所管官庁の注意喚起情報なりに医師が接した時点で、

「あれ、この間、訳分かんないまま死んじゃったあの患者と、何か似てるんじゃない?」

となって、診療録を引っ張り出してみたら、案の定、診断つけられそうな要件を備えていたので、報告しました・・・といった流れによるものだと思われます。

とりあえず、どんな形であれ、マダニを見たら、素手で触ったり、ワンちゃんから用手的にむしり取ろうとしたりしないこと。これが大事なんだろうと考えられます。

犬猫のマダニ防除については、従来から滴下(スポット)型の外用液剤や、内服型の忌避剤が広く用いられています。それらの多くはマダニに対する神経毒の類を有効成分とし、マダニがペットの体表面に長時間停滞できないようにすることを通じて、マダニが吸血を開始出来ないようにしてやろうというのが作用機序(しくみ)。

したがって、首尾よく忌避剤が奏効してマダニがペットの体表から脱落した場合でも、落ちたマダニは遺憾ながらご存命であることに注意が必要でしょう。落ちたマダニを片付けるのはヒトである飼い主さんの役回りですから、その際もじかに触れたりせず、適切に処分すること。ここで適切にというのは、憎々しげに握りつぶしたりすると、問題のウイルスが飛散しないとも限らないので、という意味。余計なことはせずに、さっさと我々の生活圏から隔離抹殺するのが最善でしょう(職業上、マダニまみれの動物を預けられてしまい、駆除しなければならないような場面もたびたびありましたが、その度にみんなで「成敗!」とか言いながら、かなり「余計なこと」をしていた気がする獣医療従事者としての自戒を込めて言及しております)。

参考までに、動物薬の商社(共立製薬株式会社)が作成し動物病院に配布したQ&A集を紹介しておきます。

SFTS(←ここを押すとPDFファイルがロードされます)

本当のところ、この件に関し、一体どの程度のリスク(危険)があるのかは、現時点において不明です。

しかし、定量できないリスクや、予測不能なリスクの存在が疑われる場合には、念のためリスクを避けるように振舞う(これを「安全の側に立つ」といいます。ここでは、マダニには近づかないようにすることをさします)のが合理的判断です。

どのぐらい危険か分からないからという理由で皆が「安全の側に立つ」と、お金はかかるし、仲間内のメンツが潰れてしまい色々面倒くさいから、「多分」という部分を省略して「安全です」と言い切ったり、嘘をついたわけではないと後日言い訳する局面をしっかり見越して「直ちに健康に影響するレベルではない」とか言い切る人たちを散々見てきたし、今も見ている今日この頃。こういうことを臆面もなく言い続ける人たち(安全デマ衆)は、まあたぶん大丈夫だからマダニもビシッと素手で触りなさい!と言わなければ、論理的に整合性を欠くことになります。

どう考えても、そんなことを言ったところで常識人に聞き入れられる当ては無いとしか私には思えませんが、果たしてどうなんでしょう・・・いや、マダニを適切に処分するのは人工放射線源と違いカネもかからずメンツも潰れないから、この場合は正論を言うのが論理的にも正しいのだ!と逆ギレされておしまいでしょうかね。