日本ペット中医学研究会(第4回学術講習)

 

 

9月最初の週末はペット中医学研究会(東京)の学術講習会でした。

午前中が基礎中医学、午後は臨床中医学と弁証のグループワーク。

基礎中医学というのは、中医学の基本となる原理原則を古典に則して学ぶ座学で、「簡単な」という意味では勿論ありません。

フロアの居眠り率も、昼食後より高め。褒められたことではありませんが、初学者に必須だけれど、最もとっつきにくい(誰もが「何がなんだか訳が分からない」と嘆く)部分ゆえ…でもあります。

午後の臨床中医学というのは、今現在ヒトにおいて実践されている中医学の最新知見をまじえて、イヌではどうか、ネコだとどうなる?と展開していく、比較検討方式の講義。

こちらは、開業医にとって日々の仕事と直結しますので、会場は熱気を帯び、舟を漕ぐ人もほぼいません(笑)。

今回のテーマは「腎泌尿器系」。

慢性腎臓病から腎不全へ至る病態は、ヒトにおいても根治的な解決は見出されておらず、最終的には透析で命をつなぎながら腎移植にわずかな期待を寄せるパターンに。

動物においても、従前からネコの慢性腎臓病・腎不全は有名でしたが、ペットの平均寿命が延びるに従い、イヌにおいても長い時間をかけて進行するタイプの腎臓病が増えてきました。

西洋医学的に根治療法が確立していないことは上述しましたが、中医学においても「これをやったら解決する」的な治療が合意されている訳ではありません。

しかし、西洋医学的に解明された慢性腎臓病の病態生理と、食欲低下や貧血の進行といった臨床症状に対して中医学的な診断を行い(弁証という)、漢方や鍼を用いた治療を実施すると、西洋医学的な常識とはかけ離れた好成績が得られる症例も少なくありません。

不治の病と言われて久しい慢性腎臓病のペットたちを、中医学的な治療がどのような機序で長生きさせているのか、今後の検討が待たれる面も多々あります。

それでも、不幸にして腎臓を患ってしまったペットとその飼い主さんにとって、中医学的な漢方治療がもたらす「まだ諦めないほうがいいですよ」と言える可能性は、大きな福音です。

そして、学術講習最後のセッションはグループ弁証。

参加者をくじ引きで4~5人のグループに分け、実在する症例を共通の課題として与えた上で、弁証(診断)から処方までをまとめさせるもの。出来上がった各班の治療案は発表され、講師の中医師が講評、添削します。

当然ながらこのワークは結構難しい。

各参加者は一国一城の主として、日々真剣勝負で臨床業務に従事する開業獣医師の面々。

目の前に供された一つの症例データに対して、かくも様々な着眼や解釈があるのかという驚きの中で、議論が進みます。

医者というのは、良し悪しはともかく、同僚の医者が下した診断には基本的にあまり深くコミットしない了解があるといわれます。

ヒトの医師のそれに比べれば、我々獣医師同士の関係は、はるかにオープンだと思いますが、それでも他の獣医師がどんな論理でこの診断にたどり着いたのか?をリアルタイムで目の当たりにする機会は滅多にありません。

ここでは中医学的な診断というふるいにかけられ、最終的に各グループ内では相応の意見集約が図られますが、それらが発表されたものを一堂に並べてみると、あらためて「なるほど、お宅の班はそう来ましたかぁ!」的な驚きが待ち構えており、これがまた面白いのです。

長い学びの道には苦労話がつきもの。

にも拘らず、憑りつかれたように茨の道へ分け入る者が後を絶たない分野というものがあります。

傍目には茨の道でも、分け入った先には苦労を補って余りある面白さが潜んでいる…あえて茨の道に分け入った者にしか知り得ない中医学の秘密を垣間見たような一日でした。

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