あおぞら診療日記「フクちゃん」

フクちゃんは若齢期から犬アトピー性皮膚炎様の掻痒症に悩まされていました。飼い主さんの強い希望により、当院ではステロイド剤を含む免疫抑制的な薬剤を使用しない治療を目指しました。広範な発赤と自傷を伴う皮膚炎の管理は難航することが見込まれましたが、飼い主さんが熱心にスキンケアに取り組んでくださった結果、漢方薬と月1~2回の薬浴シャンプーの組み合わせにより、ご覧の通り、良好な皮膚状態を維持することが出来ています。

年余にわたり、季節を問わず全身豊かな被毛につつまれ、痒みからも解放されたフクちゃんは永らく外耳炎に煩わされることもなくなり、今日もご機嫌そのものです。

 

 

 

====================命はもともと自立的=====================
病気になったとき、それを治すとはどういうことでしょうか。
たとえば胃に炎症が生じて食欲がなくなったときに飲む胃薬。
炎症で傷んだ胃粘膜を様々な機序を介して修復することを助けますが、
飲んだ胃薬そのものが胃の中で「正常な胃粘膜」に変身したり、置き換わることは出来ません。
炎症で壊れた胃粘膜も始めはそうであったように、
損傷部を修復するために新調される胃粘膜もまた「身体」が作ってくれます。
繰り返しますが、胃薬は修復の過程を助けるのであって、
飲んだ薬自体が胃粘膜に成り代わって胃の中に存在し続ける訳ではありません。
傷んだ身体(の一部分)を元通りに直すのは例外なく身体自体の営みで、
治療はそれを促したり、邪魔する要因を取り除くだけです。
つまり、命は本来自立的であるということ。それに寄り添うのが治療者の役目。
動物にその自覚を求めるのは無理としても、われわれ獣医療者はもちろん、
飼い主さんにとってもこの深淵なる原理への理解は意義深いでしょう。
命が自立的であることへの理解を(無意識的な場合も含めて)深めた飼い主さんが、
最愛の動物を健やかな状態に保つことに成功している様子は、
獣医師の私にいつも清々しい感動を与えてくれます。
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