あおぞら診療日記「ハナちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

ワンちゃんの種類(犬種)によっては、特定の疾患に(わずかですが)平均より高い罹患率を示す場合があります。

ハナちゃんはA・コッカースパニエル犬ですが、統計上は外耳道の難治性炎症や一部の眼科疾患に悩まされる確率が高くなる傾向にあることが知られています。実際、比較的若いころからハナちゃんも、一部疾患に関し管理が必要な症候が認められていました。

しかし、上述の「統計上の傾向」に対する飼い主さんの理解と、重症化の回避を目指す明確な意思の発露として、長年に渡る細やかなお世話と予防措置の積み重ねが実現。年齢が二桁に乗って数年を経た現在に至るまで、全く健全そのものの外耳道を維持しており、これはコッカースパニエル系統のワンちゃんとしては、特筆すべき「健康優良状態」だと言えます。

眼科領域についても、年齢に伴い白内障の所見はあるものの、若くして発症した角膜上の変性性病変は限局したまま推移。飼い主さんの不断の努力によってのみ為し得る「恵まれた健康管理」の下で、ハナちゃんは健やかに年を重ねています。

 

 

====================命はもともと自立的=====================
病気になったとき、それを治すとはどういうことでしょうか。
たとえば胃に炎症が生じて食欲がなくなったときに飲む胃薬。
炎症で傷んだ胃粘膜を様々な機序を介して修復することを助けますが、
飲んだ胃薬そのものが胃の中で「正常な胃粘膜」に変身したり、置き換わることは出来ません。
炎症で壊れた胃粘膜も始めはそうであったように、
損傷部を修復するために新調される胃粘膜もまた「身体」が作ってくれます。
繰り返しますが、胃薬は修復の過程を助けるのであって、
飲んだ薬自体が胃粘膜に成り代わって胃の中に存在し続ける訳ではありません。
傷んだ身体(の一部分)を元通りに直すのは例外なく身体自体の営みで、
治療はそれを促したり、邪魔する要因を取り除くだけです。
つまり、命は本来自立的であるということ。それに寄り添うのが治療者の役目。
動物にその自覚を求めるのは無理としても、われわれ獣医療者はもちろん、
飼い主さんにとってもこの深淵なる原理への理解は意義深いでしょう。
命が自立的であることへの理解を(無意識的な場合も含めて)深めた飼い主さんが、
最愛の動物を健やかな状態に保つことに成功している様子は、
獣医師の私にいつも清々しい感動を与えてくれます。
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