あおぞら診療日記「ジジくん」

 

ジジくんは十年近く前、散発性の体表腫瘤に対して生検切除術を受けた結果、中等度の悪性度が見込まれる増殖性疾患である旨の診断を受けました。グルココルチコイド剤を軸にした内科治療により再発は抑制可能でしたが、ある用量以下の領域ではことごとく再発を見る経過をとりました。

以後顕著な副作用に見舞われることもなく、ジジくんは上記の治療を耐容できた半面、治療期間が年余にわたるに至っては、加齢性の身体・生理機能低下との鑑別が困難な不定愁訴に時折悩まされるようにもなりました。

具体的にはネコちゃんの宿命とも言われる腎機能の低下や体幹を支持する筋肉の菲薄化など、本来であればグルココルチコイド剤によって増悪が予想される身体変化に、年齢相応の老化現象が混然一体となって表面化する場面が目立つようになっていきました。中でも、膀胱機能の不全麻痺に伴う排尿困難などは、当初その対応に苦慮しました。

やがて当院の中医学的管理技術の成果をジジちゃんの治療にも還元できる状況が整う過程で、飼い主さんの観察眼や飼養管理技術も熟練の度を深めてゆきました。不定愁訴の詳細は随時治療者側に伝えられ、これに季節要因などを加味し、時に応じて漢方の処方内容を見直しながら、現在に至るまで一般的な同年齢猫に遜色のない穏やかな日常を送ることが出来ています。

====================命はもともと自立的=====================
病気になったとき、それを治すとはどういうことでしょうか。
たとえば胃に炎症が生じて食欲がなくなったときに飲む胃薬。
炎症で傷んだ胃粘膜を様々な機序を介して修復することを助けますが、
飲んだ胃薬そのものが胃の中で「正常な胃粘膜」に変身したり、置き換わることは出来ません。
炎症で壊れた胃粘膜も始めはそうであったように、
損傷部を修復するために新調される胃粘膜もまた「身体」が作ってくれます。
繰り返しますが、胃薬は修復の過程を助けるのであって、
飲んだ薬自体が胃粘膜に成り代わって胃の中に存在し続ける訳ではありません。
傷んだ身体(の一部分)を元通りに直すのは例外なく身体自体の営みで、
治療はそれを促したり、邪魔する要因を取り除くだけです。
つまり、命は本来自立的であるということ。それに寄り添うのが治療者の役目。
動物にその自覚を求めるのは無理としても、われわれ獣医療者はもちろん、
飼い主さんにとってもこの深淵なる原理への理解は意義深いでしょう。
命が自立的であることへの理解を(無意識的な場合も含めて)深めた飼い主さんが、
最愛の動物を健やかな状態に保つことに成功している様子は、
獣医師の私にいつも清々しい感動を与えてくれます。
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