あおぞら診療日記「チョコくん」

 

いつも穏やかなチョコくんが胃腸症状を訴えて当院へやって来たのは師走。ときどき皮膚や耳のトラブルで治療歴はあったものの、胃腸障害の既往はほとんどなく、飼い主さんにも原因に心当たりがないと聞けば、これはちょっと訳ありの気配。定石に従った対症療法で前記の主訴は速やかに解消しましたが、細かく見ていくとどうやら断続的に生じる通過障害(胃腸の内容物がうまく先へ流れなくなること)の存在が見えてきました。

結論は前立腺の顕著な腫大と会陰ヘルニア。ある時期からチョコくんの排便がスムーズでない様子も認められたと後に明らかとなり、初診から約二か月後、会陰部が肉眼的に膨れ上がってきた時点で、飼い主さんは手術を決断されました。

会陰ヘルニア罹患犬の例にもれず、チョコくんの会陰隔壁はすでに両側性に破綻しており、片方は潜在精巣の総鞘膜移転で、もう片方は内閉鎖筋の反転により閉鎖・再建する方法を採用しました。手術後の隔壁は堅牢で、飼い主さんの細かなケアと中医学的な養生のもと、ヘルニア再発等の問題も一切なく、チョコくんは平穏な毎日を過ごしています。

 

 

====================命はもともと自立的=====================
病気になったとき、それを治すとはどういうことでしょうか。
たとえば胃に炎症が生じて食欲がなくなったときに飲む胃薬。
炎症で傷んだ胃粘膜を様々な機序を介して修復することを助けますが、
飲んだ胃薬そのものが胃の中で「正常な胃粘膜」に変身したり、置き換わることは出来ません。
炎症で壊れた胃粘膜も始めはそうであったように、
損傷部を修復するために新調される胃粘膜もまた「身体」が作ってくれます。
繰り返しますが、胃薬は修復の過程を助けるのであって、
飲んだ薬自体が胃粘膜に成り代わって胃の中に存在し続ける訳ではありません。
傷んだ身体(の一部分)を元通りに直すのは例外なく身体自体の営みで、
治療はそれを促したり、邪魔する要因を取り除くだけです。
つまり、命は本来自立的であるということ。それに寄り添うのが治療者の役目。
動物にその自覚を求めるのは無理としても、われわれ獣医療者はもちろん、
飼い主さんにとってもこの深淵なる原理への理解は意義深いでしょう。
命が自立的であることへの理解を(無意識的な場合も含めて)深めた飼い主さんが、
最愛の動物を健やかな状態に保つことに成功している様子は、
獣医師の私にいつも清々しい感動を与えてくれます。
=====================================================

「あおぞら診療日記」に戻る

“あおぞら診療日記「チョコくん」” への1件の返信

  1. ピンバック: 「あおぞら診療日記『チョコくん』」を掲載 - あおぞら動物医院

コメントは受け付けていません。