あおぞら診療日記「まめおくん&カレンくん」

まめおくんとカレンくんのお口はいつも素晴らしくキレイ。ニンゲンでも多少見習った方が良さそうな人もいるくらいの清潔さです。

しかし、言うまでもないことですが、イヌである彼らが誰の助けも借りずにくだんの口腔内環境を維持できるはずもなし。オーナーさんの継続的なホームケアが不可欠です。

我々人間が丸一日でも歯を磨かずに普段通りの飲食を続けたらどうなるかを考えれば、ワンちゃんの歯磨きが「たまに」とか「週に一度」では不十分極まりないことも容易に想像がつきましょう。にもかかわらず、多くの愛犬家のご家庭でワンちゃんの継続的なブラシングが実現しないのは、日々休みなく行うブラシングの負担感がいかに大きなものであるかを物語っています。

まめおくんとカレンくんのオーナーさんも例外ではあり得ません。しかも二人とも、今現在でもお家でのブラシング時には少なからず「非協力的」だそうで、結構暴れて逃げ出そうとする由。意外な事実ですね。

その上で、ブラシングの所要時間を伺ったところ、概ね2~3分だというのには驚かされました。以前、全身麻酔下で彼らの歯石スケーリングを実施した際に、このまま今まで同様の管理状況に戻るなら、思いのほか短時日のうちに元の木阿弥の悪しき口腔内環境に戻ってしまう旨を告げ、具体的なホームケアの内容について指導や助言をさせていただいた私から見ても、わずか三分足らずのブラシングでこれほどの成果を上げる腕前には、驚嘆を禁じ得ません。

それゆえ私は「やはりそうなのか…」と思いました。日本語という言語を介してコミュニケーションする訳ではないヒトとイヌの間で、事実として両者が通わせるものは、真摯な「思い」しかないだろうなと。このまま愛犬が歯を失ったり、歯周病の痛みにさいなまれる状況は見るに堪えないというただその一点が、まめおくんにもカレンくんにも伝わらないはずがない。だから、一応暴れて甘えては見せるけれど、年々腕を上げたオーナーさんのブラシング技術の恩恵は余すところなく受け止めている。

時々オーナーさんに連れられて、口腔ケアのメンテナンスを受けに来院する彼らを見るたびに、私たち人間が動物とともに暮らす価値の本質を垣間見られることは、獣医師冥利に尽きるのです。

====================命はもともと自立的=====================
病気になったとき、それを治すとはどういうことでしょうか。
たとえば胃に炎症が生じて食欲がなくなったときに飲む胃薬。
炎症で傷んだ胃粘膜を様々な機序を介して修復することを助けますが、
飲んだ胃薬そのものが胃の中で「正常な胃粘膜」に変身したり、置き換わることは出来ません。
炎症で壊れた胃粘膜も始めはそうであったように、
損傷部を修復するために新調される胃粘膜もまた「身体」が作ってくれます。
繰り返しますが、胃薬は修復の過程を助けるのであって、
飲んだ薬自体が胃粘膜に成り代わって胃の中に存在し続ける訳ではありません。
傷んだ身体(の一部分)を元通りに直すのは例外なく身体自体の営みで、
治療はそれを促したり、邪魔する要因を取り除くだけです。
つまり、命は本来自立的であるということ。それに寄り添うのが治療者の役目。
動物にその自覚を求めるのは無理としても、われわれ獣医療者はもちろん、
飼い主さんにとってもこの深淵なる原理への理解は意義深いでしょう。
命が自立的であることへの理解を(無意識的な場合も含めて)深めた飼い主さんが、
最愛の動物を健やかな状態に保つことに成功している様子は、
獣医師の私にいつも清々しい感動を与えてくれます。
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