あおぞら診療日記「リックくん」

かつてリックくんは、再発を繰り返す皮膚病と胃腸障害に悩まされていました。

トラブル発生のたびに、定法に従った西洋医学的な治療を行うと一旦は治るのですが、すぐにまた似たような問題に見舞われる感じで、暑さ寒さなどの外部環境の変動にとても耐性が低い印象でした。

その後導入された当院の中医学的な診療水準の向上と軌を一にして、リックくんの治療も質的な変貌を遂げ、オーナーさんの正確で息の長い管理に守られ、現在ではとてもシンプルな漢方処方による養生だけで、病気知らずの毎日を送っています。

治りにくく、容易に再発する皮膚病の原因を消化器系の脆弱さに求める視点や、リックくんのように器質的な病変を伴わない消化器症状に対する具体的な治療は、一般的な西洋医学が特に苦手とする領域。

感染症の急性期や外傷には西洋医学を、慢性疾患や再発を繰り返す病態には中医学をというふうに、時宜にかなった治療哲学や体系を選択できる強みが奏功した好例であると言えそうです。

 

====================命はもともと自立的=====================
病気になったとき、それを治すとはどういうことでしょうか。
たとえば胃に炎症が生じて食欲がなくなったときに飲む胃薬。
炎症で傷んだ胃粘膜を様々な機序を介して修復することを助けますが、
飲んだ胃薬そのものが胃の中で「正常な胃粘膜」に変身したり、置き換わることは出来ません。
炎症で壊れた胃粘膜も始めはそうであったように、
損傷部を修復するために新調される胃粘膜もまた「身体」が作ってくれます。
繰り返しますが、胃薬は修復の過程を助けるのであって、
飲んだ薬自体が胃粘膜に成り代わって胃の中に存在し続ける訳ではありません。
傷んだ身体(の一部分)を元通りに直すのは例外なく身体自体の営みで、
治療はそれを促したり、邪魔する要因を取り除くだけです。
つまり、命は本来自立的であるということ。それに寄り添うのが治療者の役目。
動物にその自覚を求めるのは無理としても、われわれ獣医療者はもちろん、
飼い主さんにとってもこの深淵なる原理への理解は意義深いでしょう。
命が自立的であることへの理解を(無意識的な場合も含めて)深めた飼い主さんが、
最愛の動物を健やかな状態に保つことに成功している様子は、
獣医師の私にいつも清々しい感動を与えてくれます。
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