あおぞら診療日記「ココちゃん」

ココちゃんは私が日々お会いするワンちゃんの中でも、十指に入る温厚さを誇ります。一口にワンちゃんの気質を「穏やかだ」と言っても、その詳細が千差万別であることは言うまでもありません。

ココちゃんの穏やかさは、身のこなしは俊敏だけれど、ヒトと対峙するときの様子や反応がまさに温厚そのものというパターン。よくある「おっとりしている」のとも違う感じです。オーナーさんに対する絶対的な信頼や安心感に充たされて生育したことが、かくも友好的な性質を形作ったのでしょう。

ココちゃんには3歳くらいから発作性の持病がありますが、もう久しく症状を見ずに過ごすことが出来ています。長い管理歴の中で、当該疾患に対する標準治療も変遷する中、これを反映した治療管理をオーナーさんが精確に実行して下さった結果、現在に至るまで、最小限の西洋医学的な管理だけで、副作用に苦しむこともなく、極めて良好な全身状態を維持することが出来ています。

 

 

 

====================命はもともと自立的=====================
病気になったとき、それを治すとはどういうことでしょうか。
たとえば胃に炎症が生じて食欲がなくなったときに飲む胃薬。
炎症で傷んだ胃粘膜を様々な機序を介して修復することを助けますが、
飲んだ胃薬そのものが胃の中で「正常な胃粘膜」に変身したり、置き換わることは出来ません。
炎症で壊れた胃粘膜も始めはそうであったように、
損傷部を修復するために新調される胃粘膜もまた「身体」が作ってくれます。
繰り返しますが、胃薬は修復の過程を助けるのであって、
飲んだ薬自体が胃粘膜に成り代わって胃の中に存在し続ける訳ではありません。
傷んだ身体(の一部分)を元通りに直すのは例外なく身体自体の営みで、
治療はそれを促したり、邪魔する要因を取り除くだけです。
つまり、命は本来自立的であるということ。それに寄り添うのが治療者の役目。
動物にその自覚を求めるのは無理としても、われわれ獣医療者はもちろん、
飼い主さんにとってもこの深淵なる原理への理解は意義深いでしょう。
命が自立的であることへの理解を(無意識的な場合も含めて)深めた飼い主さんが、
最愛の動物を健やかな状態に保つことに成功している様子は、
獣医師の私にいつも清々しい感動を与えてくれます。
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