あおぞら診療日記「カーベルくん」

カーベルくんは幼少時から本当に穏やかな気質の子。そしてそのまま大人になった印象ですが、治療歴を振り返ると実は波乱万丈。

若気の至りで小さなトウモロコシを丸呑みしてしまい、実に一か月も経ってから腸閉塞に至り、消化管を20センチも切除・再吻合する手術を経験。幸い栄養障害をきたすこともなく、文字通り立派な体格を誇るに至りましたが、実際危ない局面ではありました。

中年齢期に差し掛かってからは、ある日突然後躯が麻痺してしまい、歩行はおろか姿勢維持も自力での排尿も出来なくなってしまいました。幸い中医学的な保存治療(漢方と半導体レーザーによる経絡刺激)が顕著な効果を上げ、外科手術に拠らず短時日のうちに運動機能を回復し、自律排尿も含めて何らの後遺症を残すことなく完全に快癒。健やかな現在に至っています。

この間、カーベルくんは心ならずも随分とおかあさんに心配をかけてしまいましたが、いつもおかあさんの献身的なお世話に守られて、危機を乗り越えることが出来ました。大病の再発を防ぐ養生療法も順調で、うっかり食べ過ぎて重くなり過ぎないよう気を付けなければならないほど体調の良い近年は、おかあさんとのんびり穏やかな日々を過ごしています。

 

 

====================命はもともと自立的=====================
病気になったとき、それを治すとはどういうことでしょうか。
たとえば胃に炎症が生じて食欲がなくなったときに飲む胃薬。
炎症で傷んだ胃粘膜を様々な機序を介して修復することを助けますが、
飲んだ胃薬そのものが胃の中で「正常な胃粘膜」に変身したり、置き換わることは出来ません。
炎症で壊れた胃粘膜も始めはそうであったように、
損傷部を修復するために新調される胃粘膜もまた「身体」が作ってくれます。
繰り返しますが、胃薬は修復の過程を助けるのであって、
飲んだ薬自体が胃粘膜に成り代わって胃の中に存在し続ける訳ではありません。
傷んだ身体(の一部分)を元通りに直すのは例外なく身体自体の営みで、
治療はそれを促したり、邪魔する要因を取り除くだけです。
つまり、命は本来自立的であるということ。それに寄り添うのが治療者の役目。
動物にその自覚を求めるのは無理としても、われわれ獣医療者はもちろん、
飼い主さんにとってもこの深淵なる原理への理解は意義深いでしょう。
命が自立的であることへの理解を(無意識的な場合も含めて)深めた飼い主さんが、
最愛の動物を健やかな状態に保つことに成功している様子は、
獣医師の私にいつも清々しい感動を与えてくれます。
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