あおぞら診療日記「ハナコちゃん」

ハナコちゃんが事故による外傷で担ぎ込まれてきたのは5年以上前の真冬の朝。肢端のケガが痛々しかったのとは別に、体中のいたるところに皮膚病変があり、特に顔において顕著でしたので、これも併せて治療することになりました。

肢端の外傷は定型的な治療により軽快しましたが、全身に散在する皮膚病変の方は治療に抵抗性を示し、様々な取り組みにもかかわらず、一進一退の不安定な経過をたどりました。オーナーさんの献身的なお世話のおかげで、ある程度の改善は認められるのですが、「治った」という手応えには遠い状態のまま桜の季節を迎えたころ、急に制御を失ったかの如く皮膚病変は重篤化し始めました。

皮表のバリア機能が破綻したハナコちゃんは、皮膚の免疫状態と密接に連関するdemodex canisの感染も併発し、一時は生命の危険さえ懸念されるほど全身状態が悪化したこともありました。これはもはや通り一遍の皮膚病ではありません。

のちに明らかになったのは、性ホルモンの異常が貧血や出血傾向、易感染性となって表出した中で生じた皮膚病変らしいということ。発情期のはざまの小康を待って原因臓器の摘出手術を行い、そこから皮膚バリア機能の再建に着手。特に栄養学的な管理を集中的に行った結果、外形的にも見違えるように健康的な「美人のハナコちゃん」に復帰することが出来ました。

以後、年余にわたりオーナーさんの日常的なお世話が続けられ、中医学的な養生を目的とする医療介入とも相まって、かつての壮絶な闘病など想像もできないほど、外見上も実質上も健やかな毎日を送っています。

 

====================命はもともと自立的=====================
病気になったとき、それを治すとはどういうことでしょうか。
たとえば胃に炎症が生じて食欲がなくなったときに飲む胃薬。
炎症で傷んだ胃粘膜を様々な機序を介して修復することを助けますが、
飲んだ胃薬そのものが胃の中で「正常な胃粘膜」に変身したり、置き換わることは出来ません。
炎症で壊れた胃粘膜も始めはそうであったように、
損傷部を修復するために新調される胃粘膜もまた「身体」が作ってくれます。
繰り返しますが、胃薬は修復の過程を助けるのであって、
飲んだ薬自体が胃粘膜に成り代わって胃の中に存在し続ける訳ではありません。
傷んだ身体(の一部分)を元通りに直すのは例外なく身体自体の営みで、
治療はそれを促したり、邪魔する要因を取り除くだけです。
つまり、命は本来自立的であるということ。それに寄り添うのが治療者の役目。
動物にその自覚を求めるのは無理としても、われわれ獣医療者はもちろん、
飼い主さんにとってもこの深淵なる原理への理解は意義深いでしょう。
命が自立的であることへの理解を(無意識的な場合も含めて)深めた飼い主さんが、
最愛の動物を健やかな状態に保つことに成功している様子は、
獣医師の私にいつも清々しい感動を与えてくれます。
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