ハナコちゃんが事故による外傷で担ぎ込まれてきたのは5年以上前の真冬の朝。肢端のケガが痛々しかったのとは別に、体中のいたるところに皮膚病変があり、特に顔において顕著でしたので、これも併せて治療することになりました。
肢端の外傷は定型的な治療により軽快しましたが、全身に散在する皮膚病変の方は治療に抵抗性を示し、様々な取り組みにもかかわらず、一進一退の不安定な経過をたどりました。オーナーさんの献身的なお世話のおかげで、ある程度の改善は認められるのですが、「治った」という手応えには遠い状態のまま桜の季節を迎えたころ、急に制御を失ったかの如く皮膚病変は重篤化し始めました。
皮表のバリア機能が破綻したハナコちゃんは、皮膚の免疫状態と密接に連関するdemodex canisの感染も併発し、一時は生命の危険さえ懸念されるほど全身状態が悪化したこともありました。これはもはや通り一遍の皮膚病ではありません。
のちに明らかになったのは、性ホルモンの異常が貧血や出血傾向、易感染性となって表出した中で生じた皮膚病変らしいということ。発情期のはざまの小康を待って原因臓器の摘出手術を行い、そこから皮膚バリア機能の再建に着手。特に栄養学的な管理を集中的に行った結果、外形的にも見違えるように健康的な「美人のハナコちゃん」に復帰することが出来ました。
以後、年余にわたりオーナーさんの日常的なお世話が続けられ、中医学的な養生を目的とする医療介入とも相まって、かつての壮絶な闘病など想像もできないほど、外見上も実質上も健やかな毎日を送っています。
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