あおぞら診療日記「ソラちゃん」

ソラちゃんはかつて耐糖能に異常をきたし、数年前のある日、著しい高血糖の危険な状態で担ぎ込まれました。

ネコが糖尿病状態に陥った場合、その多くは原因がはっきりせず、ソラちゃんも例外ではありませんでした。数か月間、在宅インシュリン注射による西洋医学的なコントロールを継続する傍らで、中医学に基づく漢方治療を併用した結果、幸いにも積極的なインシュリン投与を必要としない水準で血糖が推移するようになりました。

高齢の影響もあり、異常な糖負荷のあと腎臓機能の低下が顕在化したため、その増悪抑止に漢方の処方方針を変更。耐糖能の異常とストレスの関係を重視したオーナーさんの細やかな在宅ケアと相まって、現在に至るまで安定的な食欲と体重を維持できています。

 

====================命はもともと自立的=====================
病気になったとき、それを治すとはどういうことでしょうか。
たとえば胃に炎症が生じて食欲がなくなったときに飲む胃薬。
炎症で傷んだ胃粘膜を様々な機序を介して修復することを助けますが、
飲んだ胃薬そのものが胃の中で「正常な胃粘膜」に変身したり、置き換わることは出来ません。
炎症で壊れた胃粘膜も始めはそうであったように、
損傷部を修復するために新調される胃粘膜もまた「身体」が作ってくれます。
繰り返しますが、胃薬は修復の過程を助けるのであって、
飲んだ薬自体が胃粘膜に成り代わって胃の中に存在し続ける訳ではありません。
傷んだ身体(の一部分)を元通りに直すのは例外なく身体自体の営みで、
治療はそれを促したり、邪魔する要因を取り除くだけです。
つまり、命は本来自立的であるということ。それに寄り添うのが治療者の役目。
動物にその自覚を求めるのは無理としても、われわれ獣医療者はもちろん、
飼い主さんにとってもこの深淵なる原理への理解は意義深いでしょう。
命が自立的であることへの理解を(無意識的な場合も含めて)深めた飼い主さんが、
最愛の動物を健やかな状態に保つことに成功している様子は、
獣医師の私にいつも清々しい感動を与えてくれます。
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