あおぞら診療日記「モカちゃん」

モカちゃんには幼少期から膝蓋骨が脱臼しやすい症状がありました。安易なインプラント方式は論外としても、従来、治療は外科的な整復固定が一般的でした。ただ後肢全体の湾曲が是正されない以上、「負荷の付け回し」となる術式に頼らざるを得ない問題点もありました。それは長い年月の後に別の形に姿を変えて問題が顕在化しやすいことを意味します。

モカちゃんの場合は、オーナーさんの養育・看護スキルを含む種々の条件をクリアしていたため、漢方薬と関節軟骨の養生療法を併用した保存的治療を選択することが出来ました。以来、痛みや跛行などの臨床症状を一切見ることなく、快適に過ごせています。

また、何度か罹患した外耳炎の予防管理スキルも並行して体得された結果、数年来、外耳炎がどんなものであったかも忘れてしまう日々が保たれています。

 

====================命はもともと自立的=====================
病気になったとき、それを治すとはどういうことでしょうか。
たとえば胃に炎症が生じて食欲がなくなったときに飲む胃薬。
炎症で傷んだ胃粘膜を様々な機序を介して修復することを助けますが、
飲んだ胃薬そのものが胃の中で「正常な胃粘膜」に変身したり、置き換わることは出来ません。
炎症で壊れた胃粘膜も始めはそうであったように、
損傷部を修復するために新調される胃粘膜もまた「身体」が作ってくれます。
繰り返しますが、胃薬は修復の過程を助けるのであって、
飲んだ薬自体が胃粘膜に成り代わって胃の中に存在し続ける訳ではありません。
傷んだ身体(の一部分)を元通りに直すのは例外なく身体自体の営みで、
治療はそれを促したり、邪魔する要因を取り除くだけです。
つまり、命は本来自立的であるということ。それに寄り添うのが治療者の役目。
動物にその自覚を求めるのは無理としても、われわれ獣医療者はもちろん、
飼い主さんにとってもこの深淵なる原理への理解は意義深いでしょう。
命が自立的であることへの理解を(無意識的な場合も含めて)深めた飼い主さんが、
最愛の動物を健やかな状態に保つことに成功している様子は、
獣医師の私にいつも清々しい感動を与えてくれます。
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