あおぞら診療日記「ピースくん」

世の中には、大したお世話をしなくても、これといったトラブルに悩まされることのない頑健な耳や目を持ったワンちゃんというのも多少は存在しますが、大半のワンちゃんは環境や季節の変化に連れて、こまごまとした不調に見舞われながら暮らしているもの。

ピースくんは紛れもなく後者の一人なのですが、漢方と点眼(西洋薬)の組み合わせでほとんど動きを止めた印象の白内障に対する治療や、日ごろの適切な管理によって事実上ほとんど煩わされることもなくなった外耳炎の既往など、飼い主さんのお世話がとにかく模範的なのです。

中でも特筆すべきは、ピースくんの歯のホームケア。これが本当に素晴らしい。

ペットの側の慣れや協力という「入口」のハードルが高かったり、仮に乗り越えられても飼い主さんとして習慣化できるのかについて自信が持てない等の理由により、気にはなっているが実行に結びつかないことの多い自宅での歯磨き。ピースくんも飼い主さんもまさにそんな悩める人々の一人で、比較的若い段階で一部の歯を失う憂き目も見ました。

しかし、この経験から飼い主さんは一念発起。必ずしも大人しく口に触らせてくれるわけでもなかったピースくんと根気強く向き合い、結果はご覧の通り。しかも、この美しい歯を維持するのに要する歯磨きの時間は、毎日1~2分とのこと。まさに驚きの技術です。

このような成果がペットオーナーさんたちの間で広く共有されたなら、おなかが空いているのに口が痛くてご飯が食べられないような苦難にあえぐペットもオーナーさんもいなくなることでしょう。

 

====================命はもともと自立的=====================
病気になったとき、それを治すとはどういうことでしょうか。
たとえば胃に炎症が生じて食欲がなくなったときに飲む胃薬。
炎症で傷んだ胃粘膜を様々な機序を介して修復することを助けますが、
飲んだ胃薬そのものが胃の中で「正常な胃粘膜」に変身したり、置き換わることは出来ません。
炎症で壊れた胃粘膜も始めはそうであったように、
損傷部を修復するために新調される胃粘膜もまた「身体」が作ってくれます。
繰り返しますが、胃薬は修復の過程を助けるのであって、
飲んだ薬自体が胃粘膜に成り代わって胃の中に存在し続ける訳ではありません。
傷んだ身体(の一部分)を元通りに直すのは例外なく身体自体の営みで、
治療はそれを促したり、邪魔する要因を取り除くだけです。
つまり、命は本来自立的であるということ。それに寄り添うのが治療者の役目。
動物にその自覚を求めるのは無理としても、われわれ獣医療者はもちろん、
飼い主さんにとってもこの深淵なる原理への理解は意義深いでしょう。
命が自立的であることへの理解を(無意識的な場合も含めて)深めた飼い主さんが、
最愛の動物を健やかな状態に保つことに成功している様子は、
獣医師の私にいつも清々しい感動を与えてくれます。
=====================================================

「あおぞら診療日記」に戻る

 

 

“あおぞら診療日記「ピースくん」” への1件の返信

  1. ピンバック: 「あおぞら診療日記『ピースくん』」を掲載 - あおぞら動物医院

コメントは受け付けていません。