あおぞら診療日記「ルルちゃん」

 

ルルちゃんは御年17歳で巨大な乳がんの摘出手術を受けました。

手術に先立ち、自壊病変からの出血と癌性悪液質による重度貧血に対して漢方治療を開始。経口投薬や強制給餌といった未経験の試練を、オーナーさんとルルちゃんは見事乗り越え、初診から一か月半後に臨んだ外科手術でした。

猫の乳がんの多くがそうであるのと同様に、ルルちゃんの病理検査所見は大変厳しいものでしたが、術後も引き続き漢方による養生治療を継続。局所再発にも見舞われず、毛艶と肉付きが良くなったことでむしろ若返った印象。

必ずしも楽な道のりではありませんでしたが、ご家族一丸となった治療体制により、「(高齢でも)思い切って受けた甲斐があった」と言っていただける手術となりました。

 

 

 

====================命はもともと自立的=====================
病気になったとき、それを治すとはどういうことでしょうか。
たとえば胃に炎症が生じて食欲がなくなったときに飲む胃薬。
炎症で傷んだ胃粘膜を様々な機序を介して修復することを助けますが、
飲んだ胃薬そのものが胃の中で「正常な胃粘膜」に変身したり、置き換わることは出来ません。
炎症で壊れた胃粘膜も始めはそうであったように、
損傷部を修復するために新調される胃粘膜もまた「身体」が作ってくれます。
繰り返しますが、胃薬は修復の過程を助けるのであって、
飲んだ薬自体が胃粘膜に成り代わって胃の中に存在し続ける訳ではありません。
傷んだ身体(の一部分)を元通りに直すのは例外なく身体自体の営みで、
治療はそれを促したり、邪魔する要因を取り除くだけです。
つまり、命は本来自立的であるということ。それに寄り添うのが治療者の役目。
動物にその自覚を求めるのは無理としても、われわれ獣医療者はもちろん、
飼い主さんにとってもこの深淵なる原理への理解は意義深いでしょう。
命が自立的であることへの理解を(無意識的な場合も含めて)深めた飼い主さんが、
最愛の動物を健やかな状態に保つことに成功している様子は、
獣医師の私にいつも清々しい感動を与えてくれます。
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