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狂犬病って必要なの?(第五回)

狂犬病って必要なの?(第五回)

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⑤まとめに代えて

法律で義務付けられているからといって、意味も知らされずに毎年費用負担だけ求められていると感じているオーナーが少なからず存在することを、我々臨床獣医師は常々気にしておりました。

これまでにご紹介した内容だけで、オーナーの抱えたモヤモヤが払拭できるかには自信がありません。

最終回にあたる今回は、本来オフレコ扱いにすべきかもしれないが、しかし実務上はかなり重要な話題を、参考までに、追加的に紹介したいと思います。

狂犬病予防法に係る違反行為に対しては、刑事罰(罰金刑)が規定されています。

しかし、現実問題として、狂犬病予防法に違反した状態が招来するリスクの実質は、当該違反者である飼い主が「法律を順守する意識が低い」「善良な市民としての義務を果たすつもりがない」という批判をうける可能性に関連したものかもしれません。

そうなると当然、社会的な信用の低下によってさまざまな不利益を被る可能性が高まりますが、中でも特に注意を要するのが、民事の係争に発展した場合への影響でしょう。

例えば、飼い犬が咬傷事故の当事者になった場合、相手がヒトである場合はもちろん、イヌなどの動物であった場合にも、所轄の保健所等に事故の発生を届け出る義務が生じます。

違反した場合は罰金刑の対象となり、前科が付きます。さらに、当該事故の前段において係留義務違反等がある人身事故の場合は、刑法の過失傷害罪に問われる可能性もあります。

しかし、大多数の咬傷事故は故意や悪意に基づかない偶発事故として処理されるので、最終的には物的・身体的被害の原状回復を含む損害の賠償によって解決を図ろうとするケースが大半です。

ここで当事者の過失割合に関する見解が分かれたり、賠償されるべき損害の規模や範囲を合意できないために示談交渉が決裂すると、民事訴訟が提起されることになります。

過去の判例は、咬傷事故の責任の大半を「咬んだイヌ」の所有者に科すものが圧倒的多数であることから、「咬まれた側」の代理人(弁護士)としては手掛けやすい案件ともいわれます。

損害賠償請求のために提起された民事訴訟の判決は、裁判官の「心証」によって下されますから、ここで「被告は善良な市民としての義務を果たす意思がもともと希薄であった」などと弁論されると、非常に影響が大きくなります。

実際に高額の賠償を命じられた場合、経済的な打撃はもちろん、社会的な制裁にも似た影響を受け、地域における立場や人間関係に深刻なダメージを負うことになります。

狂犬病予防法を順守することで、こうしたリスクを最小化できる側面があることは、すべてのイヌのオーナーに知らされておくべき視点であろうと考え、一臨床獣医師としての見聞を紹介させていただきました。

ここまで5回に分けて狂犬病予防接種について、私見も交えながら紹介して参りました。

☑ 残酷極まりない狂犬病犠牲者をただの一人も出さない政策は「島国の特権」

☑ 曝露後ワクチンは有効な技術だが、対象者が急増すると機能しなくなる

☑ 現行の不活化ワクチンによる防疫は、動物の福祉に照らしても耐容性が高い

☑ 狂犬病防疫事業が獣医師会の欲得ずくの利権だという批判には反論がある

☑ 狂犬病予防関連法規に対する遵法の姿勢は、飼い主が負う事故リスクの縮減に寄与する

狂犬病が治療できない死の病であること、狂騒化した罹患犬が咬みついて被害を拡大させていく様態などは、被害発生が直ちに社会不安を生じ、ガバナンスが失われた混乱状態を引き起こします。

諸外国の例では、混乱期の非常措置として、人命最優先の号令の下、多数の動物に対して予防的な致死処分が行われた例もあります。

ひとたび狂犬病の脅威が現実化した際に人間社会が受ける打撃や損害は甚大であり、仮に回復可能な部分があったとしても、それに要する時間やコストは予見不能であると言わざるを得ません。

ゼロリスクの清浄国であり続ける選択が可能な日本にとって、適正かつ公正に運用される狂犬病防疫の政策的なコストは「割安な保険料」のようなものだという考え方もあります。

マイクロチップ等による明確な個体識別と、予防接種記録との紐づけが確立されれば、万が一社会が混乱した場合にも、ペットとオーナーが不当な迫害を受ける危惧もなくなります。

当院の経営理念にもある「動物のぬくもりと生きる喜び」を、望めば誰もが手にできる社会であって欲しいと、私は常々思っています。

狂犬病の不安がない清浄国であることは、動物に対して寛容な社会の土台にもなります。世界でも希少な「最高水準の安全」を諦めないことの価値は絶大であると考えます。

(完)

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