④獣医師会や役所の「利権」だからやめられないのでは?
これも是非皆さんが聞いてみたいポイントではないでしょうか(笑)。
狂犬病予防接種にかかる費用は、役所が発行する鑑札や注射済票といった登録管理業務に関する手数料と、狂犬病予防ワクチンの接種自体に関する部材費と技術料に大別されますが、前者の登録管理業務のコストは我々獣医療者が関知し得ないので、ワクチン接種の部分に限って述べたいと思います。
私自身も所属する公益社団法人宮城県獣医師会の財務諸表は、法律に従いすべて開示されており、その収入の相当部分を狂犬病予防接種業務からの収益に負っています。これはほとんどの地方獣医師会に共通する構造です。
一方、公益社団法人は利潤やその留保蓄積を求めない団体なので、各決算期ごとに「公益性の高い事業」に対して、ほぼ同額の支出を行います。宮城県獣医師会の場合、公益事業の一丁目一番地である狂犬病予防注射業務のほか、飼い主のいないネコの不妊化手術に対して県と協調して費用を助成する事業などが有名です。
そもそも獣医師会自体要らないんじゃないの?という指摘もたまに聞かれます。
しかし、獣医師の職域は広く、犬猫病院のセンセー以外に、極めて密接に国民生活の根幹を支える獣医師が多数活躍している事実は意外と知られておりません。
そうした獣医師すべてに対して、社会の要請を的確に伝える仕組みとして機能する職能団体の筆頭が獣医師会であるという認識もまた、広く人口に膾炙しているとは言い難いのが現状でしょう。
具体的には、聴診器を下げて注射や手術をする臨床獣医師のほか、私たち人間の口に入るものすべての安全性を担保する(食品衛生)のも、海外とのヒト・モノ・動物の往来に伴う安全性を担保する(検疫)のも、実は獣医師が主管しています。
動物病院の臨床獣医師は、獣医師という国家資格者の集団が担う幅広い職域の中の、ごく一部分を分担しているという構造です。
これら獣医師免許を持った人たちに、時々刻々変化する社会の要請に応えるための情報や指示を与えたり、免許保有者の資質を保証する教育事業を永続的に行うことは、紛れもなく「社会のためになる」取り組みですが、相応のコストを要します。
今すぐに金銭的な価値を生み出す訳ではないが、上述したような、社会全体のためにも実施が望ましい取り組みに要するコストを、(税金の投入ではなく)自らの公益事業収入によって賄う「仕組み」として獣医師会が機能している、とも言えます。
愛玩犬の飼育頭数が減少し続け、狂犬病予防事業の収益では獣医師会の公益事業を賄うことが難しくなったのを受けて、食鳥の事業を受託して組織財政を維持可能にする努力も開始されました。
狂犬病予防事業が、獣医師会の利己的な利益処分に回されている事実はない(そんな利益自体が存在しない)ことも強調しておきたいと思います。
ましてや、獣医師会の構成メンバーである獣医師個人にとっての狂犬病予防事業といえば「獣医師会を通じた社会へのご奉公」であるという以外に、受け止めようがないものです。
ヒトの医師会のような政治力(資金力)を持たない獣医師会は、所属する会員の利益を圧力団体として政策に反映させる力もないというのが、残念ですが実情です。
狂犬病予防注射業務の実働部隊である開業獣医師にとって、獣医師会はいまや「なんとかして支える」べき対象ではあっても、貢いだら自分たちに何かを施してくれるだろうと期待するような存在ではないということです。
自治体主催の集合注射業務には、獣医師会が派遣する開業獣医師が当番制で従事します。しかしながら、注射実施頭数自体が減少した昨今、担当者への日当も、当番日の休業補償になど遠く及ばない水準にまで沈んでいます。
それでも、雨が降ろうが風が吹こうが(たまに雪が降ったりもするので集合注射終了までタイヤ交換もできない笑)、自らの事業所を留守にして、粛々と注射会場を巡回する担当獣医師は、ひたすら利他の心で業務に取り組んでいます。
これを私利私欲のための利権だなんて、冗談はよして欲しいというのが私の偽らざる感想です。
(第五回に続く)
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