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院長ブログ
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狂犬病って必要なの?(第一回)

狂犬病って必要なの?(第一回)

久しく「狂犬病清浄国」である島国・日本で、毎年毎年狂犬病予防接種を繰り返す必要はあるのか?

数年に一度は、どこかで質問されます。獣医師は大抵似たような経験をします。

令和8年度の法定注射期間の開始にあたり、これから5回に分けて、あらためて狂犬病予防接種について考えてみたいと思います。

そもそも論にはなりますが、本邦においては狂犬病予防法第5条ですべての犬の所有者に接種を義務付けていますので、これを覆すとしたら選挙権の行使を通して立法府に要望するという手順になります。

なので結論としては「接種する以外の選択肢はない」訳で、この状況を「悪法も法なり」だと評する人もいます。

ここで狂犬病予防接種を話題にしたのは、狂犬病予防業務の推進に従事する私自身が国の政策の是非を論じたいわけでも、黙って法に従いなさいと暴力的な強制力を笠に着て指図したいからでもありません。

我々獣医療者が毎日お付き合い頂いている飼い主さんたちにとって「知っておいて損はない」と思われる内容にもかかわらず、種々の(大人の)事情から飼い主さんの耳に届きづらい情報というものが存在し、それを最もフランクにお伝えできるとしたら、それは我々獣医療者なのではないか…と常々思っていたことに因ります。

①イヌもヒトも発症ゼロなのに、政府が全頭接種を義務付けるのはなぜか?

狂犬病は発症したら致死率百パーセントで治療法はありません。科学教育用の資料として東大医科研が作成した日本人(小児)発症者の映像がありますが、文字通り正視に耐えない悲惨な転帰です。

痙攣、幻覚、錯乱、麻痺、昏睡、呼吸停止、心停止…。万が一にもこんな亡くなり方があってはならない残酷さです。

日本は長年にわたり狂犬病発症が全くない清浄国です。狂犬病死亡者の99%は犬からの感染ですから、犬に咬まれて狂犬病死した人はいない状態が続いているということですが、これが達成できるのは基本的に「経済力のある島国」だけ。

隣国と地続きの大陸国では、たとえ経済力があっても死者ゼロの実現は至難だとされます。

つまり、日本はたまたま狂犬病リスク「ゼロ」の社会を実現可能な立場にあったので「じゃあ、そこを目指しましょう」と社会で合意できた結果、世界でも稀な恵まれた状況を、いまや皆が当たり前だと思うまでになったわけです。

経済力はあるが隣国と地続きで、隣国もそのまた隣国と地続きでという大陸国では、年に数名は亡くなっても仕方がないというレベルを「ゴール」にせざるを得ません。

日本が「拡大志向を悪いことだと思わない覇権国家」の近所であることをやめたくても、よそへ引っ越せないのと同様の構図です。

金持ちの島国といえばイギリス。結局は2020年に離脱することになったEU欧州連合に当初加盟する際、海底トンネルでつながる隣国フランスとの間で、狂犬病リスクをどこまで許容するかに関する価値観の差が問題となりました。

ゼロリスク仕様の英国型狂犬病防疫法制に、フランスはじめ大陸側の加盟国が「そんなの諦めてやめてもらいますからね」と主張したわけです。

紆余曲折の末、一定の妥協を選んだイギリスでしたが、人の移動に関する国境管理を原則廃止するシェンゲン協定の方には一貫して加わりませんでした。

狂犬病予防接種の法的な義務付けや、毎年全頭に実施するかどうかは、その国が目指すゴール(狂犬病防疫レベル)の違いであることが分かります。

予防はコストと成果のバランスによってどこまでやるかを「決められる」ものなので、社会としてどの程度の安全を目指すのかは本来、国民的な議論によって合意を形成すべきものなのです。

(第二回に続く)

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