あおぞら動物医院

漢方・中獣医学・宮城県岩沼市・0223-24-0672

10月 6th, 2013

日本臨床獣医学フォーラム2013

小世界, by aozora.

20130928_151025九月の最終週末、日本臨床獣医学フォーラム(JBVP)2013年次大会(以下「フォーラム」)に行って来ました。

会場は例年同様、赤坂のニューオータニ。昨年との違いは、さすがの東京も全然暑くなかったことと、すぐお隣の現場囲いの中で、生来の高さより若干背たけが縮んではいたものの、まだそれと分かるたたずまいで佇立していた旧「赤坂プリンスホテル」が、今年はすっかり消えてなくなっていたこと。赤プリが縮んでなくなってゆく経緯については、テレビ報道等でも有名ですが、よくあんな器用なことをやってのけるものです。解体工事は大成建設でしたが、そもそもあんなつぶしの利かないへんてこなビルにしてしまったデザイナー(設計事務所)は一体どこの誰だったんでしょうか(勿論施主も悪いが)。実は新築施工も大成建設だったりするとか。西武があんなことになるとも予想はできなかったのでしょうが、だとしてもリセールすら不可能になる巨大なコンクリートの塊を作っては短時日のうちに解体し、産業廃棄物の山を築くという方式は、もういい加減にするべきでしょう。

本題の学会ですが、フォーラムは年々開催規模が大きくなり、その行く末を案じる声もあるのだそうですが、一参加者たる私の都合としては、一般的に「ウケのいい」「流行りに乗った」テーマばかりをズラリと並べられ、みんなで同じような話を朝から晩まで聞かされるようなスタイルより、フォーラムのように講演タイトルだけ見ると参加者の半分くらいは「何のことやら想像がつかない」的な風変わりな内容のセミナーまで幅広く用意してくれるスタイルの方がありがたいわけで、今年も十分楽しめる三日間でした。その中から、いくつか概略をご紹介したいと思います。

「One Medicine – Transforming Medicine – 」 これは15歳で日本を離れ、コーネル大学で学部(2005)とマスター(2007)を終えたあと、同大学の獣医学部を卒業し(2011)、現在ハーバード大学のメディカルスクールの博士課程に在籍する演者が、自らの研究生活の経験を交えつつ、特にmicrobiomeについて熱く語るというもの。普段、海外帰りで英語がペラペラの日本人をさして「帰国子女」という呼び方をしますが、この演者のような場合は何と言うのでしょうか。出国子女・・・ではないでしょうし、しかも男性。子女なんて言葉自体が、へんな言い方だという気もしてきますね。いずれにせよ、彼も日本語はすでにだいぶ忘れてしまった印象でした。

それはさておき、One healthだの、One Medicineだのという表現は、まさにちょっとした流行りもの的な感じすらあり、上述したような私の趣味に照らせば、それだけだとあまり食欲をそそられないのですが、microbiomeと聞いてがぜん強い動機付けが成立。実際、一瞬も眠くならない興味深い内容でした。microbiomeというのは、要するに動物の体には、それを構成する細胞の少なくとも10倍、100倍オーダーの微生物が存在(生息)していて、しかも、それらはただそこに居るというだけではなく、なんと住みつく相手の動物の生体機能や免疫状態はもちろんのこと、思考や判断に至るまで、もしかしたら影響を及ぼしているかもしれないらしい・・・というような話。

たとえば、臆病ネズミのウンチを鷹揚ネズミに注入すると、鷹揚ネズミの方まで臆病者に豹変するという現象を観察したグループまであるのだそうな。また、腸内細菌は自分たちの住みやすい環境を維持するために、腸内からそのヒトないしイヌネコの脳にめがけて「おいコラ!あれを食べろ。いや、これは食べるな」的な指図を送っている可能性まで検討されているとのこと。ホントなら面白すぎます・・・よね?

同じ演者は、日本の若者に対して「とにかく外へ出てみよ!」と推奨しておりましたが、その中で、獣医師になる為に必要な学費の差について触れておりました。一般に「日本は安いらしい」という程度には知られていますが、どのくらい安いのか。半官半民のLand-grant大学であるコーネル大学を例にとると、

ニューヨーク州内出身者 年間 約2万8千ドル

ニューヨーク州外出身者 同上 約4万2千ドル

とのこと。米国と日本とでは、学制が異なり修業年限も違うので単純比較は出来ませんが、年間授業料だけを比較すれば、州内出身者のそれが日本の私立獣医大学と同じくらい。日本の国立大は文学部に入っても医学部に入っても一律53万5800円(私が卒業した年は44万7600円。入学時は37万で、幸い留年はしてませんから、当時の値上げペースは凄かったということ)ですから、やはり破格のような気もします。破格である、と言い切らないのには当然理由があり、獣医系大学で行われる教育の水準というか、質において、残念ながら日米はとても比較できるような状況には無いという現実。これはヒトの医学部でも全く同様とのこと。可及的速やかにこのギャップを埋める取り組みが必要なのは間違いありません。他方、アメリカでは大学・大学院教育を終えた社会人一年生が巨額の教育ローンを背負っているため、これが社会的自立の足枷になりかねないとして問題になっている事実もあります。獣医師や医師になるのにどちらのメリットが大きいのか、即断しづらいのが現状でしょうか。

歯科系の講義が充実していたことも印象的でした。これはここ数年の傾向でもあり、他の学会でも見られる現象。背景には当然「ニーズの高まり」があるわけですが、獣医療の普及に伴いペット全般の寿命延長が進展し、歯科疾患の相談件数が増えたことのほかに、動物の歯科治療は誰が行うのか?という根源的な問題が表面化しつつある点が指摘されています。法律上は誰が考えても獣医師をおいて該当者はないのですが、前述した教育システムの不備もあって、少なくとも大学レベルでは臨床歯科技術の講義などは皆無に近く、ペット・オーナーが最初に飛び込む開業獣医師にあっては、制度的にデザインされた体系的な歯科教育を受けた者など、実は皆無なのです。

この情けない現状に割って入ってきたのが、当然というか想定を超えてというか、ヒトの歯科医師だったりするのでした。歯医者さんによる動物の麻酔など完全に違法行為である一方、本来の業務独占者である獣医師ときたら歯のレントゲン一つ撮った経験がないという現実。動物がマトモな歯科治療を受ける道はどこにあるのだということになってしまいました。開業歯科医師の経営環境も厳しさを増し、一握りの勝ち組を除いては、決して楽とはいえない歯科医院経営者が増えていることも、この問題の遠因になっていることは間違いありませんから、今まさに「明日は我が身」の過当競争時代へ突き進む最中の開業獣医師も、実は黙って見過ごすわけには行かない事情を抱えていたりもします。

私の施設でも、数年来この問題の解決のために準備を進めて参りましたが、必要な設備導入もどうにかめどが立ち、肝心要の獣医師の技術についても、幸い顕著な進歩が達成されつつありますが、こうした学会プログラムの充実もその大きな原動力の一つを担ってきたわけです。今回も、他の分野とのやりくりに苦心しつつも、最大限本分野に充当して参りました。去年よりも今年、今よりも半年後のほうがよりエクセレントな治療を提供できるように、取り組んでまいります。

最後は、当院の外来でも手術でも大活躍中の半導体レーザー装置について。「レーザーとICG修飾リポソームを用いた次世代がん治療」と題して、私も所属する獣医レーザー学会会長である、岡本芳晴鳥取大学教授が講演した内容は、いよいよ本邦獣医外科学の世界にも、白人医療マフィアの洗脳から覚める動きが出てきたことを期待させる内容でした。インドシアニングリーン(ICG)はもともと生体内造影用の色素でしたが、特定の波長のレーザー光線で励起すると発熱し、さらに活性酸素を生ずる性質が明かされるにつれて、その臨床応用が開発され、当院においても体表腫瘤を形成するがんに対する温熱治療として、3年前から導入し、画期的な成果を上げております。ただ、これまではICGの組織内注入が注射法によっていたため、体腔内深部の腫瘤に選択的にICGを分布させることが難しく、適応が限られてきました。

今回岡本教授が紹介した方法は、ICGを分子レベルで結合させたリポソームを血管内投与することで、腫瘍組織に選択的にICGを取り込ませ(EPR効果を利用)た上で、体外から比較的高いエネルギー密度のレーザー光線を照射することで、体腔内腫瘍においても効果的にがん細胞を死滅させるというもの。レーザー温熱治療の詳細については別の機会に詳しく紹介したいと思いますが、我々臨床獣医にとって隔靴掻痒の感を否めなかった体腔内腫瘍のレーザー治療に、ブレークスルーをもたらす可能性大のアイデアでした。

しかし、そのアイデア以上に私をワクワクさせたのが、上述した「白人医療マフィアの洗脳」から開放されつつある一人が、また外科系の教育者から飛び出したという事実。日獣大から岐阜大に転じた鷲巣教授がその草分けで、その弟子で宮崎大の鳥巣準教授とつづき、一人、また一人と「癌は三大治療で克服できる」とか「肝臓病の食事療法は欧米穀物メジャーのドライフードが最適」などと本気で信じるような愚昧さから脱する人々が登場しつつあるのでしたが、岡本教授の視点もまさにその流れを汲むもの。曰く、免疫状態(特にリンパ球系。保険適用の抗がん剤の多くはこの系統を壊滅的に叩きのめす)の改善なくして、がんの克服なしと断言し、繰り返し強調する様は、まさに壮観でした。がんを生み出した「下地」を放置したまま、出来上がった不都合な結果(がん腫瘤の発生と増大)だけを消して無くそうとする西洋医学的がん三大治療の敗色は、とうの昔から濃厚。にもかかわらず、公的保険の縛りがあるわけでもない獣医学において、一体なんでそんな無駄なことを右向け右で延々と続けているのか、私にはさっぱり意味が分からなかっただけに、がんを生み出した「下地」に直接言及した岡本教授の慧眼に、日本獣医学の近未来は捨てたもんじゃないかもしれないと、明るい気持ちになりました。

最初に紹介したハーバードの先生が講演の最後に、「コッホの仮説(Kocho’s postulates)」を例に取り、これからを生きる若者に一番必要なものの一つが「本当に、それはそうなのか?(人々が言う通りなのか?)」という視点だと締めくくったことが思い出されます。もはや、未来の世界の当事者である見込みが薄い中年者の私ですが、未来を背負う若い世代に向けて、「でもさぁ、それって本当にそうなの? どうやって確かめたの?」とすぐ鵜呑みにせず自分の頭で考える習慣の大切さについて、あらゆる場面で吹聴して回るべきだなとの思いを強くした、今年のフォーラムでした。

 

 

 

 

 

 

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Responses to “日本臨床獣医学フォーラム2013”

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