あおぞら動物医院

漢方・中獣医学・宮城県岩沼市・0223-24-0672

8月 17th, 2013

麻布大学付属動物病院

小世界, by aozora.

二週続けて日曜日を休診にしてしまい、ご迷惑をおかけいたしました。

前週は両国のコンベンションセンターが会場でしたが、今回は神奈川県相模原市の麻布大学獣医臨床センター(付属動物病院)が会場。内容は超音波診断装置の実技講習をひたすら「見えるまでやれ!」というもの。朝から晩まで、遮光したフロアに缶詰めになってひたすら画面の中にターゲット臓器を追い求める、ある種のマラソン教習というか、我々オジサン・オバサン獣医には結構ハードな感じの講習会でした。

麻布大学といえば、年配の方だと「麻布獣医大」と言ったほうが通りがよい、私学獣医科大の名門。サラリーマン子弟の小生が獣医学科に入学した際は、(当初なんとなく選んだ道を投げ出して受験自体をやり直す「泣き付き受験」だったという事情もあり)進学は費用の安い国立限定という大前提があったので、そもそも私学については受験生時点で研究すらしなかったのでしたが、これがあとあと苦労の種になろうとはもちろん知る由もなし。どういうことかと申しますと、国家資格としての獣医師免許はどこでもいいから獣医学科を卒業して学士になり、国家試験に合格しさえすればいいのでしたが、その免許を「動物の診療業務」に使おうという場合には、どこの獣医学科を出たかによって、卒業時点で実務能力(臨床能力といいます)に結構差があるのだという現実を知らなかったため、九州の田舎の獣医学科からノコノコ東京に出てきた私は、当初大変なカルチャーショックを受けたのでした。

上で、獣医師免許を「動物の診療業務に使う」って、いったい何言ってんの?といぶかしがられますが、一昔前は国立の獣医学科を出て、いわゆる獣医サンになるのはほんの一握りの物好きだけで、大半は公務員になるのが当たり前でした。その次が民間企業(製薬会社が多い)か研究者として大学に残るかで、残りの中から大動物(牛などの産業動物や競走馬など)と小動物(犬猫など)の臨床にちょこっと流れるという感じ。とくに公務員は、獣医職として採用される枠が別に用意されており、国家ならⅠ種(むろん、ちゃんと競争試験で合格してきた皆さんと、入省後も互角に出世競争できるという意味では必ずしもありませんが)採用ですし、地方なら上級職。悪く無いじゃんと思う学生が多いのも当然です。そうした手堅い職場に馴染めそうにない変人の中から、ガチガチの徒弟制度で成り立つ臨床獣医師を目指すパターン(飛んで火に入る夏の虫)が多いというのも、必然と言えなくもないわけです。それがいつの間にか、受験産業が創出した?獣医バブルのころ(1972~74年生まれが受験するころ。受験人口のピークとも重なる)から徐々に事情が変わり、今では国立獣医科の学生まで含めて小動物臨床を希望する割合が高くなり、小動物開業者の事業環境は今後急速に厳しさを増してゆくこと必至だそうですから、本当に時代が変わったとしか言いようがありません。

ともかく、東京に出てきて勤務獣医として自分の無力に愕然とした小生の記憶に、ひときわ強烈に焼きついているのが、上述の麻布大学付属動物病院でした。葛飾区の病院に勤めていた私は、教育的な院長に恵まれたおかげで、都内各所で開催される勉強会や講習会に結構ちょくちょく参加することが出来たのですが、そのひとつとして、当時竣工間もなかった麻布の新病院が会場だった講習会があり、ついでにお披露目をかねて参加者は施設内を一通り見学させられたのでした。その時の驚きといったら、本当に誇張でなくあっけに取られて口を半開きにして、病院内を見て回ったという状況。とにかく、あまりの立派さ、先進設備のオンパレードに「だから私学の学費は高いんだ・・・」と至極単純に納得したものでした。

私が学んだ宮崎大学の付属家畜病院は、国立の中でもとくに施設、教授陣共に貧弱で、麻布大などと比較するような代物では無いにせよ、東京に出てきて、天下の東大付属家畜病院なるところへ出入りする機会が多くなるにつれ、そのお粗末な診療内容(猫一匹を若い屈強な獣医学生か院生かが4人、5人がかりで押さえつけて採血をする光景を何回も目撃した)や宝の持ち腐れ的な診療設備(なにしろ東大だから、宮崎大などとは比較にならないほどいろんな目新しい機器が並んでいるのだが、それをろくに使いこなせていないためにかえって悲惨さが際立つような・・・)に、私学獣医科と国立獣医科は、そもそも教育目標というか、到達すべきゴールが始めから別物なんだという恐るべき真実に気づかされた上で、私学の雄、麻布大学の新病院を見せ付けられたという経緯でした。(なお東大の名誉のために言っておきますと、あくまで当時の話であり、今はそれなりにというか、立派に進化を遂げているとの噂です。)

あれからずいぶん経った今日、受験人口が激減して、入試の偏差値競争が一転して大学間の受験生獲得競争へと変容し、麻布以外の私学獣医科も軒並み付属病院を新築。そうなると箱物だけでは差別化が難しいからと、より一般的な私立大文系学部が始めた「キャンパスの都心回帰」競争が、獣医系にも影を落とし始め、横浜線の矢部だ淵野辺だという麻布大のマイナーな立地が徐々にハンディになりつつあるのだという話さえ出る始末。確かに、今回出かけてみても、東京駅を基点にすると、そこから麻布大学へ行くより、仙台駅に行くほうが早くて簡単(もちろん運賃は著しく異なるが)なわけですから、そんなことでまで競争させられる現代の大学教育というのも、大変だわなと同情を禁じ得ません。

ともあれ、そうした競争の原理は、国立大学の独立行政法人化(自主採算性の確立要求)という形で、受験生の人気にだけ支えられてきた殿様商法の獣医学科にも押し寄せ、地方国立の合従連衡や、付属動物病院の充実に見られる「臨床重視」型の教育カリキュラムへの変更など、動物のお医者さんを養成するという点では、素直な原点回帰を遂げつつあります。そして、その先には、海外先進諸国の獣医学教育との比較において「著しく遅れている」教育カリキュラムの充実という、大変コストのかかる進化(何しろ、獣医学生一人当たりに換算した際の教員数が、日本は絶対的に過小なのです)を求められる段階が、目前に迫っています。

獣医学界全体の変化、変貌。その一方で、自分自身の過去、現在、そしてこれから。いずれも到底予見不能なのは明らかです。麻布大付属動物病院を初めて目にして驚愕した日から、十数年。さすがに経過時間相応に多少年季が入ってきた今日の同病院を眺めながら、とりあえず、日々自分をあてにしてくださる顧客の皆さんの期待を裏切らないよう自己研鑽を続ける以外に、自分の立ち位置をみずから確認できる手立てはないんだろうななどと思いつつ、帰路に着きました。

 

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Responses to “麻布大学付属動物病院”

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