ペットの空輸について

お盆ですが、お変わりなくお過ごしでしょうか。

さて、本日、ちょっと気になるニュースを見つけました。

飛行機に預けたチワワが熱中症で死ぬ

全日空「過失ない」に賛否両論

扱いとしては、全日本空輸が当該事故に対して「過失はない」との見解を表明したことについて、あるいは離島へ遊びに行くのに犬を連れてゆくこと自体の是非について、ネット空間で良いとか悪いとか議論になっていますよと、紹介している形。

しかし、やはりペットオーナーにとって一番大事なことは「ペットを飛行機に乗せる」とは、具体的にどういうことなのか?をちゃんと知っておくということに尽きます。事故が起きてしまってから、責任が誰にあったのかを論じたところで、死んだペットは帰ってきません。航空会社からいくらお金を貰ったところで、生き返りはしないのですから。

で、本題に入ります。

各自が持参したキャリーに入れられたペットは、そのまま動物用のコンテナに混載されます。空港のチェックインカウンターで預託手荷物(機内に持ち込まない手荷物)を依頼すると、背後のベルトコンベアに乗ってスルスルと荷物がバックヤードへ消えてゆくのを見かけます。多くの場合、すぐその先からペットも同じルートをたどり、ターミナルビルでコンテナ詰めされ(航空機の直下まで数珠繋ぎになって運ばれてゆく、あれです)、その後機体へ積み込まれます。この間、空港施設の仕様にもよりますが、基本的にコンテナ詰め作業自体は屋根の下ですが、そこも含めて当然空調も温度管理もありません。また、出発便、到着便が入り乱れる大規模空港や、小規模でも機材繰りの遅延が発生した暁には、コンテナ詰めされた荷物と動物たちは、アスファルト上にて暫時待機させられることになりますから、夏なら灼熱地獄、冬なら凍死の危機が襲い掛かること必定です。

晴れて航空機に積み込まれた後も安泰ではありません。航空各社は、動物が格納される貨物室の一角は旅客キャビン並みに与圧され、また空調も行われると説明していますが、それらが旅客キャビンと全く同等かどうかは疑問が残ります。実際、客室と「完全に同じ」だとか「同等の」といった表現をとっている会社も見かけません。動物がたぶん許容できるであろうと考えられる程度に、与圧したり冷暖房したりしていると、そう理解すべきでしょう。ヒトが乗るキャビンですら、工学的な都合では、出来ればあんまり与圧はしたくないとか、空気はなるべくカラカラに乾燥させておきたいという方向性が存在し、そこから完全には開放され得ないジレンマが航空機には宿命付けられています(与圧も加湿もお客の快適性は高めるが、機体の劣化・脆弱化に直結しかねない)。

そして、その試練も無事乗り越えたところで、再び到着ターミナル側で前述の逆の作業(荷解き)が待っているわけです。

さらに別の視点でも、そもそも、動物専用コンテナや貨物室内のスペース自体が、様々な病原微生物で汚染されている可能性も、決して無視できないリスクです。キャリーから漏出した排泄物は、肉眼的に「ある程度きれいにする」ことは出来ても、滅菌までは不可能です。ある程度きれいにする・・・のも、常識的には雑巾がけ程度が関の山。そんなことで伝染性疾患の伝播が防止できるなら、入院治療する動物病院も苦労はない!ということになるのです。

以上の流れを知っていただければ、ペットの空輸は相当に危ない点があると合点がゆくことでしょう。特に、夏の暑い盛りや真冬の積載は、そのまま輸送の道中にペットが遭遇する過酷さを不可避にするのだということが、お分かりいただけたと思います。

蛇足にはなりますが、ここまで読んでいただけた後でなら、冒頭でどうでも良いことと切り捨てた「チワワを預けた飼い主」に対する評価というものも、おのずと一つの方向に収斂されそうな気がしてまいります。命を懸けるほどの必然性もないのに、安易にペットを空輸しようなどと考える飼い主の発想には、獣医師として首肯できません。信頼できるペットシッターを探しておくなり、かかりつけ医に「社会的入院」の可否を相談してみるなり、出来ることは他にもあるだろうというのが、その理由です。

一方、受託する側についても、料金を徴収する以上、委託側が背負うことになるリスクの内容と、それに対する受託側の回避努力の限界について、より具体的かつ詳細な情報提供をすべきで、その上で始めて免責に関する同意書を差し入れさせるのでなければ、サービスとして二流以下だといわざるを得ません。やむを得ず動物の空輸サービスを利用する皆さんの側から、航空会社に対して改善を要望してみる必要もありそうです。

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