糸の切れた凧とウインドシア

想像を絶する経済音痴ぶりを発揮した民主党が退場したのと、それを駄目押すアベノミクスとやら

のおかげで、東京市場の株価はとんでもない棒上げを演じてきた。

それがようやく今日眠りを覚ますつるべ落とし。日経平均は1143円の大幅安だという。

糸の切れた凧のごとく、天高く舞い上がった株価は、余りにまっすぐ上の方に行き過ぎて

待ち受けるwind shearに絡め取られ、急降下した模様である。

訳知り顔の識者とかいうのがテレビに出てきて、やれ棒上げの巻き戻しの幕開けに過ぎないだの、

指数先物に振り回されただけだ、急騰後に必要な当然の調整だから問題ないだのと、

知ったようなことをのたまう様が目に浮かぶ。

 

結論はハッキリしている。相場の行方など、誰にも分からないということ。誰が何と言おうが、相場の

説明は推測、憶測、希望的観測か、はたまた後講釈かのいずれか。そこに根拠を求めるなど、

始めからナンセンス。

 

安倍政権が仕掛けた自国通貨安による近隣窮乏政策は、まぎれもなく通貨戦争そのもので、通貨

戦争というのは過去何度となく、やがて鉄砲玉が飛び交う「熱い」戦争へと国家国民を引きずり

込んでいった訳だから、通貨戦争を単なる比喩だと捉えるのは大きな誤りであろう。

 

通貨戦争を仕掛けられた方は、ときに通常ミサイルを一発撃ち込まれたのよりも強い怒りや憎しみを

抱くことさえあるという真実。

他方、北の三代目の若大将は気が狂っているかもしれないから、日本に核ミサイルを撃ち込んで

くるかもしれないので、迎撃ミサイルを配備して備えましょうと言われるとあっさり信じてしまう人々。

北朝鮮という王国以外に守るべき財産など何もない将軍様ご一統が、それを自動的に失うボタンでも

あるミサイル発射ボタンを押すなどと本気で思ってしまう世界に類を見ない感覚。

そういった「他人の気持ち」を推測するすべをまるで知らないかのようなナイーヴな論調が目に余る

今日この頃だったが、蒙昧さの中で惰眠をむさぼる人達が、日経平均が1000円下げたくらいで

目を覚ますとも思えない。

 

繰り返すが、自国通貨安の誘導は、通商相手国すべてに対する宣戦布告である。調子に乗って

やりすぎれば苛烈な報復が待っている、そういう性質の政策である。

 

異次元バズーカなどといって、禁じ手を「白だ!」と黒田が言い張る世紀の大実験は、そっくりそのまま

グローバル化した(国や地域の垣根がなくなった)金融市場を疾風怒濤のごとくかく乱する巨額の

投機マネーの原資になっている。株が下がったと言っても、この相場はまだ上げ始めてたかだか

7か月ほどの若さだから、例えば一般個人参加者の痛手など、はっきり言ってたかが知れている。

 

しかし、日銀の前代未聞の資金供給という「虎」はすでに野に放たれたわけで、ここから先もそうは

簡単に「やっぱり危なそうだから、ウチの虎を捕まえに行きます!」などと殊勝なことは言わない

だろうし、腐っても日銀ゆえ、無謬性の証を立てることは役人の至上命題だということで、今更

引っ込みも付かないだろう。従って、まだまだ過剰流動性を改めるような政策には転じまい。

 

株が暴騰している最中に、長期金利まで跳ね上がり、政府日銀は後者の火消しに大わらわ。

これがまず既に、この相場の不健全さを何より物語っている。実需の改善を伴わない資産インフレ

の火が、日米独の株式市場という油紙に燃え移ったと、まあ大体そういうことだろう。

 

一昔前までは、投資対象を多様にすれば(例えば株式のほかにコモディティにも分散投資するとか)

それだけで自動的にリスクヘッジ出来ていたものが、近年ではどれもこれもみな連動する傾向が

鮮明になり、安全策にも何もならなくなってきた。株式の銘柄間での分散投資など何をかいわんや

である。しかも、それどころか、上述した通り、債券と株式がおんなじ方向に動いたりするもんだから、

これではもう昔の教えは何だったんだ?状態。

 

ちょっと前まで、コモディティが大変な高騰を示していたが、これも結局はどこかの国が金融緩和を

やった少なからぬ部分が商品市場に流れ込み、もともと株式や債券と比べると屁みたいなキャパ

しかないマーケットの需給は滅茶苦茶となり、原油も金もプラチナも何でもいいから買ってこいと

なったという解説が、今となっては一番腑に落ちる。

 

その上、金融工学の発達だとか言って、みんなでこぞっておんなじアルゴリズムを採用したリスク

ヘッジを画策し、それをミリ秒単位でロボットが市場に発注するところまで全て横並びなわけだから、

一旦相場が巻き戻しモードに入ると、それこそコンピュータも想定出来なかったような暴落暴騰が示現し、

マーケットに大混乱をもたらすことになる。一体、これのどこがどうリスクヘッジなのか?である。

 

冒頭で相場の未来は誰にも分からないと言ったが、結果そのものは予見不能でも、一般的な原則

というものはかなりの部分蓄積されており、先人の知恵として入手可能である。いわく、

「まだはもうなり、もうはまだなり。」とかみたいな。

 

日銀の輪転機に対抗できる資力があるとかいう向きは別として、個人のなけなしの資金をアベノ

ミクスだのみで株式市場に投入する場合は、基本通り、余り欲をかかないことが、最大のリスクヘッジ

だろう。乗り遅れたり、降りた後でどんどん上がってゆくのを見ると慌てるだろうが、この船はしょせん

キワモノである。上げで取り損ねたら、しばらく待って、悲鳴も上がらない「下げ」で取るという手もあろう。

それぐらいの知識と心構えが無ければ、このキワモノ・ゲテモノ系相場においては、結構な確率で

身ぐるみはがれて泣きを見るのではないか。

 

リッチな他人のことはともかく、私のような過剰債務者は、とにもかくにも金利上昇が心配で生きた心地がしない。

銀行に愚痴ったら、残存の長い債券をしこたま抱えている地銀や信金も、金利急騰局面においては

センセーと一蓮托生ですよと笑っていた。だがこれは正確さを欠く議論である。リージョナルな金融機関が

最悪潰れても、笑っていた担当者が直ちに必ず死ぬわけではないのに対して、医院の債務を連帯保証

している私は、いわゆる街の中小企業のシャチョーと同様、「即死」する運命にある。

 

よって今の私は、顔が引きつってしまい、作り笑いすら浮かべられない。それが私にとってのアベノミクスである。