「こんなことくらいで連れて来て良いものかどうか…」(5)

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明らかな病気ではなさそうな段階で、ペットを動物病院に連れて行ってもいいのか?という話に戻りましょう。

獣医師の私にとっては言うまでもないことですが、どんな状態であっても動物を診せてもらわないことには判断のしようがないので、「気になったなら、なるべく早く連れて来ていただきたい」というのが揺るぎのない結論です。

私が当たり前だと思っていても、実際立て続けに複数の飼い主さんから同じ話題が提起された以上、この件に関する解決の責任は私たち獣医療提供側に存在することは明らかなので、この話はぜひ取り上げておかねばと考えた次第。

私が毎日の診療業務の中で最も心を乱されるのは、「いったいどうしてこんなになるまで連れて来てくれなかったんだ?」という手遅れ系の症例を前に、とにかく何とか命だけでも救ってやって欲しいと懇願する飼い主さんと対峙するようなときです。

ヒトも動物も、生身のカラダに魂が宿った「期限の区切りを有する生命体」ですから、想定される限度を超えた身体酷使や病態の放置は、後戻りの利かない病的な変化をもたらし生命を直接脅かします。ある一定の限度を超えて「破壊」が進んだ身体(臓器、器官)は、どんなに手を尽くしても元通りにはならないものなのです。

病気が治るというのは、身体の部分的破綻(病態)の程度が、動物がもともと持っている自然治癒力の範囲内に収まっている場合にのみ実現し得ます。

医者が手を差し延べられるのは、自然治癒を促すことや治癒の妨げになる要素を取り除くという部分だけ。神が与えた自然治癒力を凌駕する神通力などでは決してありませんから、とにかく、何かおかしいなと思ったら一刻も早く連れてきて貰わなければ間に合わなくなることも普通に起こるのです。

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